早速、「カモが到来」とばかりにインド人オヤジが声をかけてきた。交渉下手な僕は術中にはまり、あえなく1時間150ルピー(約390円)という割高料金で乗船する羽目になった。とほほ。
例のごとくジーンズの前ポケットに入れていたお金は160ルピー。オヤジに渡す分を差し引くと10ルピーしか残らない。あいにく財布にも手持ちのルピーを切らしていた。だから後から「ガンジス川にお供えする花を買ってくれ」と求めてきたお婆さんには、10ルピーしか払えなかった。
10ルピーを受け取ったお婆さん、「20ルピーだぁぁ」(ヒンディー語を推測)とわめき出した。僕はお婆さんに「ごめん。手元資金が尽きた。恨むなら先にぼったオヤジを恨んでくれ」と日本語で釈明。するとオヤジは感づいたか、わめき続けるお婆さんに構わず櫂をこぎ出した。ボートはあっという間にお婆さんを置き去りにして川の中央へ。
■ヘイ、ジャパニ、ルック!■
日が陰ってからのガンジス川はなかなか心地よい。太陽に晒されず消耗が少ないし、生ぬるい風が軽く吹いてくれるからだ。順調に対岸に到着。ほかの観光客と同じように履き物を脱いでガンジス川に浸かった。ただし、その場の大半のインド人に習って下半身まで。
全身浸かれって? 半端者ですみません。蒸留水で24時間生きられるコレラ菌が、たった3時間しか生きられない(by地球の迷い方)ほど毒性が強い川に、全身をゆだねる勇気が湧きませんでした…
もちろん、現地には気にしない剛の者もいる。ガキど…もとい、子供たちだ。彼らは深入りしない僕を挑発するように、声をかけてきた。「ヘイ、ジャパニ、ルック!」
ザバーン
連中は川の中で一斉にでんぐり返しを始めた。粘膜にダメージが受けるなんて些細なことは一切気にしない姿勢。認めてやろう。何もあげられないけど。
■オヤジ「これは提案じゃない」と主張しつつ提案■
ガンジス川に抱かれる経験は良かったが、簡単に終わらせてくれないのがインドの旅。やっぱりちゃんとオチがあった。オチの正体はオヤジだ。
ボートに乗っている間、ひっきりなしに話しかけてきた。最初のうちは街のガイドだったが、だんだん余計な話が大半を占めていく。「これは提案じゃない」と言いつつ、自分の扱っているシルクショップの話が始まる。
乗船時間が終わりに近づくと、「俺のシルクショップに来ないか。現地プライスで出してやる」という話ばかりになる。「さっき提案じゃないって言っていたのは誰だよ」と言いたくなるが、まだ川の上。オヤジを逆上させてもあまり楽しい結果にはならない。笑顔で断っておく。
ボートがいよいよ最終盤に近づくと「もう1時間乗らないか」。それも断って150ルピーを渡すと、「10ドルにしてくれ」と言い出してきた。ちなみに10ドルは約440ルピー。面白いことを言うなこいつ。
何度か押し問答をした末に、ようやく下船する。いやぁ、インドの旅はほんと楽をさせてくれない。だからこそ面白いとも言えるのだけど。