ラヴィはどっかと椅子に腰掛けると、僕にも座るよう指示してきた。指示されたとおり腰掛けると、どこからともなく子供が出現。赤茶けた小さな器――日干し煉瓦か何かの器だろうか――に褐色の液体を入れ、僕を含む集団のところに持ってきた。そう、僕がインドで初めて飲むチャイだ。
ありがたくいただいた。予想したとおり無駄に甘く、乳の香りも強い。日本のインド料理店では味わえないくどさだ。でも、睡眠不足かつ朝食抜きで昼近くまで観光して疲労した体には、このくどさが意外なほど心地よい。勧められるままお代わりもした。
■みやげもの屋より必死に売り込んでくるラヴィ■
ただし、チャイを出してくれたのは相応の下心があるから。ラヴィの「友達」は、シルクなどを扱うみやげもの屋なのだ。
「デリーは物価が高い。ここならシルク製品が200〜300ルピー(約520〜780円)で買えるんだぞ。君の女友達に買ってやれ」
当のみやげもの屋たちよりも、ラヴィが積極的に勧めてくる。もちろん僕は取り合わない。ラヴィは半ば怒った顔になって次の商材を勧めてきた。
「エスカールフはどうだ?」
なんじゃそりゃ? 僕が目を点にして再確認を求めると、ラヴィは「エスカールフったらエスカールフなんだ」と怒り出した。もうこれは想像力をありったけ働かせるしかなさそうだ。
1分ほどの検討した結果、スカーフじゃないかと思い至った。「スカーフ?」と聞くと、うなずく。なんでこっちの発音が通じるのに、あっちの発音はエスカールフなんだろう? 謎は深まるばかりだが、とにかく買わないの一点張りでその場を切り抜けた。あー、ようやく日本寺か…。この間、30分以上が経過していた。
日本寺こと「日月山法輪寺」は法華宗を奉っている。インドで日本様式の寺院を見るという物珍しさがある。「南無妙法蓮華教」がアルファベットやヒンドゥー語のつづりで書かれているところなどが面白い。
残念ながら日本人の上人にはお目にかかれなかった。このため、ほどほどのところで退散することにした。さあ、バラナシに戻るとしようか。
■I have a Japan dollar ?■
その旨を告げようとラヴィを見ると、彼の表情が突然ぱっと明るくなるのが分かった。何やら良からぬことを思いついたらしい。彼は僕を見てこう言った。
「I have a Japan dollar ?」
おまえがジャパン・ダラーとやらを持っているかどうかなんて知らないよ。そもそもJapan dollarってなんだよ?
いや、もちろんそういうボケじゃない。ラヴィ英語では「I」は「You」なのだ。つまり、おまえは日本のドルというか日本円を持っているかと聞いてきたのだ。
さらにラヴィは、僕の意向など全く無視して一つの結論を導き出していいた。「俺はバクシーシをジャパン・ダラーでもらうんだ」。
バクシーシはイスラム教の教えの一つ「喜捨」の精神からくる施しのこと。ただし、イスラム圏やインドなどの地域で、困った連中がお金をせびる時の言葉として氾濫している。
10円玉を見せたところ、ラヴィは首を振り「note, note」と言い出す。札を要求するとは生意気な。大人げないけれど、意地でも払ってやるまいという気になってきた。とりあえず「ホテルに全部置いてきた。話はホテルに着いてからだ」とその場は切り抜け、日本寺を後にした。
その直後、ラヴィは日本寺の向かいの建物に僕を案内した。お寺の施設かと思ったら、数秒後にはみやげ物屋だと判明。僕は無言で外に出て、オートリクシャーの後部座席に着席する。そしてラヴィに「バナーラスに帰るぞ」と要求した。
気になります・・・続きがっ!
インドやエジプト、南米に行きたいと思っているのですが先立つものがなく、もっぱら机上旅行です。
雰囲気が伝わってきて、むむむ、大変そうですねー・・・
たあぼうさんの後に道は出来るのです。(力説!)
早く続きが読みたいです。
回を追うごとに面白指数がアップしてきています。
一度ラヴィに会ってみたい気がします。
いや、やっぱり会いたくないです。って、どっちやねん。
はじめまして〜。
> インドやエジプト、南米
かなり濃度が高めのところばかりですね(笑) 個人旅行ですとどこも骨が折れるんじゃないかと思います。
でも、だからこそ味わい深い旅にもなるんですけどね! ぜひ机上と言わずチャレンジしてみてください、入念に準備した上で。
>サントーシーさん
道、仰るとおりですね。インドほど先人の道が強く影響していると実感した旅はないかもしれません。
>Ochiさん
虎穴に入らずんば…の精神でぜひ会ってください。虎児と言えるほどの獲物が手に入るかは疑問ですが (^_^;)