■餞別は山盛りのポテトチップ■
「今日バラナシを出なくちゃならないから、おいとまするよ」と一家に告げる。ラヴィは引き延ばし工作を図ってきた。「あと5分」などと言っては、近所にたむろっている「Best Friend」との接見を繰り返す。その数、10人ではきかない。ずいぶんbestがいるもんだ。
いい加減相手する気がしなくなり、オートリクシャーに座って動かないことにした。ようやくラヴィはあきらめた…かと思ったら、今度はラヴィのお母さんが何か言っている。
「ポテトチップ、良かったら持っていかないかい?」
ということらしい。うぅ、これは断りにくい。さっき、かなり大げさに喜んでみせたからに違いないのだ(いや、本当に美味しかったけど十分に量を堪能したんだよな…)。しばし待って、ありがたく揚げたてを頂戴することに。
その量がまたすごかった。できがよいのだけを選別していたのに、ちょっとした買い物袋くらいの大きさの分量をいただいてしまったんである。こりゃ、晩ご飯はいらないな…。
ラヴィ一家に見送られながら、ラヴィの運転でラヴィ宅を後にする。短時間ながら不思議な交流ができた気がする。これを芸能人がやると「世界ウルルン滞在記」になるわけだなぁ…
などと感傷には浸っている余裕は僕にはなかった。これから来るであろうラヴィとの戦い−−日本のお札チップ闘争−−に備え、気を抜くまいと考えていたからだ。
ただし、こうも考えていた。「日本のお札をほしがらないようなら、運賃(300ルピー)と合わせて500ルピー以上出してもいいな」。ラヴィ一家にしてもらった歓迎に対するお礼賃としてである。期待薄だけど。
行きと同様に駄菓子屋やチャイ屋などでラヴィはいちいち停車した。ところが途中で給油をしてからは(ラヴィは持ち合わせがなく、僕が50ルピーを払った)、「もう寄り道しない」と言い出したかと思うと、いきなりリクシャーのスピードを上げた。14時40分、ついにホテルに帰り着いた。長かった。
■辛勝…でも、後味はあまりに悪い■
リクシャーを下りた僕は、まず運賃の300ルピーをラヴィに手渡した。それから彼に言った。「日本の札は渡せない。硬貨ならまだいいけど」。
予想通りだが残念なことに、淡い期待は裏切られた。ラヴィは首を振り、歯をむき出しにして「note,note」と連発して迫ってきた。こちらも首を振り、100ルピーをもう1枚手渡す。「さっきの給油代と合わせて150ルピーのボーナスだ。十分だろ」。そう告げて、ホテルのドアを開けて中に入った。
合計450ルピーという金額に特に根拠はない。歓迎してもらったお礼分から、みやげ物屋に連れ回されたり、札を要求されたりした分を差し引いてこのくらいが僕の気持ちだった。伝わるといいけど、きっと伝わらないんだろうなぁ。
結局、ラヴィはあきらめきれなかったようだ。僕が中に入って5分以上経過してから、宿の扉を開いて踏み込んできた。同宿の日本の方と話していた僕の所に詰め寄ってくる。
でも、こちらも根負けするわけにはいかない。「No, that's all」,「My problem is your problem!」,「Finished !!」,最後には文法も何もなくなったけれど、強く彼に言い続けた。
ついにラヴィが折れた。不機嫌な顔のまま、きびすを返すとホテルの外へ出ていった。
さようなら、ラヴィ。実に後味の悪い別れになってしまったけど。
ふと腕時計を見ると、15時を告げようとしていた。
インドに行かれたのですね。素晴らしい!
一番行きたくて行けてない国です。
ツアーでないレポとても読み応えがあります。
こんにちは。こちらこそ、ごぶさたしてまして恐縮です。
ありがとうございます。ろくに観光情報を載せていないんで旅行記じゃないよなと反省気味です。
現地の人々が濃すぎるせいで印象に残らなかったんです(汗)