2006年05月04日

ムガルの隆盛と零落の象徴、タージ・マハール−−アグラ3

タージ・マハール今回のインド観光のハイライトはタージ・マハールをおいてほかにない。最盛期のムガル皇帝が贅の限りを尽くして築き上げた愛妃の廟。その白く輝く対称形の姿を眺めると、すれまくったアグラの人々との戦いなど、しばし忘れてしまう。

5ドル+500ルピー(合計で約1900円)という外国人向け観光料金は不当に高い。でも、行って後悔する人はいないと思う。

絵心がない僕には、タージの美しさを形容するのは難しい。代わりに少し固い内容で、少し違う視点からタージにまつわる話を語ってみたい(自己満足型の文章になるので、普段より少し大きい写真だけごらんになってスルーしていただければ幸いです)。

タージは日本や中国の運命までも大きく変えた

タージ・マハールは、ムガル帝国の第5代皇帝シャー・ジャハンが愛妃ムムターズ・マハルの死を悼んで築いた廟だ。完成までに22年、途方もない費用をかけて築かれた57m四方の廟が、その後のムガル帝国、いや日本や中国の運命までも変えたように思う。シャー・ジャハンが、廟の建築にうつつを抜かし、皇帝として大事な作業を一つ怠ったからだ。

怠った作業とは、後継を決めておくこと。自身も父の死後に兄弟と争って帝位を確保した身だから、同じ形態でも構わないと思っていたのかもしれない。しかしこれが、後の帝国に不幸をもたらした。

シャー・ジャハンが後継を定めないまま病に倒れてしまったのだ。この報を聞きつけ、助からないと思いこんだ息子たちが勝手に争いを始めた。勝ち抜いたのはアウラングゼーブ。シャー・ジャハンが「祈る人」とからかったほど敬虔なイスラム教徒だった。

アウラングゼーブは奇跡的に回復した父親を幽閉してしまう。失意のシャー・ジャハンはタージの完成からわずか5年で帝位を失うと、数年して寿命を終える。

馬鹿げた政策を繰り返す「原理主義者」が後継に

アウラングゼーブは今の言葉で言うところの原理主義者だった。異教徒に対して過酷な、そしてインドを支配する立場としてはあまりに馬鹿げた政策を次々と打ち出していく。

間近から見上げるタージその最たるものが「異教徒」への親征である。ヒンドゥー教徒をはじめ、圧倒的にムスリム以外の宗教が信じる人が多いインドでこれをやれば、反乱を無駄に増やすばかりだ。

相次ぐ反乱を鎮圧するために、さらに親征を繰り返す。これがタージの建築で負担が痛んだ国家財政に決定的な打撃を与えた。戦費が膨大になったうえ、反乱が増えたせいで見た目の版図は広がっても思うように税金が徴収できなくなったためだ。

同時期に重大な対外政策を打つことも忘れていた。オスマン帝国の圧力を避けて大航海時代を迎えたヨーロッパ勢力が海から進出してきたことへの対策である。帝国の軍事力は内部鎮圧ばかりに向けられて疲弊。後にフランスとの争いに勝って侵入してきたイギリスを食い止める力はなくなっていた。

イギリスのインド支配、そしてインド産アヘンが中国へ

アウラングゼーブの死後、ムガル帝国は急速に収縮する。代わってイギリスがインドを支配する。そのイギリスはインド産の阿片を中国に持ち込み、禁輸措置を取られるとアヘン戦争を引き起こした。武力強化を怠っていた清朝はイギリスにあっけなく敗れ、いわゆる列強に食いつぶされていく。

清朝の敗北を知った日本も、それから程なくして開国を余儀なくされる。そして江戸幕府が滅亡し、明治維新の道を歩むことになった…。

歴史にifはありえない。でも、もしタージ・マハールがなかったら、日本は今のような姿に発展していたんだろうか。病的とも言えるほど完璧なシンメトリックの廟を眺めながら、そんなことに勝手に思いを馳せていた。

…あまりに暑すぎて頭がボーッとしていたからかもしれない。

廟の入口付近
posted by たあぼう at 10:45 | Comment(2) | TrackBack(0) | インド旅行
この記事へのコメント
アグラ城でシャー・ジャハーンが幽閉された部屋へは、
行かれましたか?

私はその部屋で後ろ向きになって、
鏡にタージマハルを映して見て、
同じようにしてムムターズを想ったシャー・ジャハーンの
哀れさを嘆きを思うといたたまれませんでした。
Posted by サントーシー at 2006年06月10日 22:54
サントーシーさん

アグラ城の部屋、少しだけ滞在しました。でも鏡に映しはしなかったなあ。サントーシーさんにお聞きしておくんでした。
Posted by たあぼう at 2006年06月11日 23:12
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