2005年04月28日

ムリさん

ハッサン氏一家「ミスター、まずは水を飲みなよ」

僕はこんな言葉を話しかけられていた。イラン人のおじさんから、日本語で。

サーダーバード宮殿博物館の観光を終え、20分あまりをかけてバス・ターミナルまで下りてきた。この日は食事をろくに取っておらず、水も限りあるからとケチっていたんだけど、そのせいでひび割れた唇は、イラン人のおじさんに「終わっている」という印象を与えたらしい。

イラン人に頼み事をされる

おじさんはタクシー運転手だった。といっても、かなりくたびれた自家用車を使った無認可タクシーなんだけど。でも、「むかし日本でずっと働かせてもらって日本には感謝している。ほんとはダウンタウンまで20000リアルくらいするんだけど、4000でいいよ」という。なかなか魅力的な提案だった。

もちろん、一般に知らない人の車に乗るのはすごく危険な行為だ。僕だって例えばトルコのイスタンブールだったら絶対乗らない。でも、

・ここはイランである。イラン人の日本語使いはわりと評判がいい
・用心しながら話し込んでみた印象からすると、おじさんは誠実そうだ
・これまで18カ国ほど旅行してきた経験からすると、今回はたぶん大丈夫そう


と頭の中で考え、ゴーサインを出したのである。

いざ車に乗り込んだら、さらに不思議な提案を受けることになった。「日本から持ち帰った留守番電話機がうまく使えないんだ。設定したいけど日本語のマニュアルが読めないし。もし時間があったら家まで来てくれないか?」 僕はこれも同意した。

これも冷静に考えるとひどく危険な行為だと思う。でも、最初に大丈夫だろうと判断した印象と、イラン人の民家を覗く機会なんてそうそう得られるはずもないという好奇心が勝り、乗っかることにしたのだ。

それからものの数分でおじさんの家にやってきた。見かけこそ質素だけれど、何しろ宮廷博物館の近くの高台というなかなかの立地。「日本で8年間働いて稼いだお金で建てたんだ」と、おじさんは胸を張って言った。

かくして、僕はイラン人のおうちに上がり込むことになった。

家族の人たちも、いきなり知らない外国人がやってきてびっくりしただろうに、快く迎え入れてくれた。早速、電話機を設定しようと提案したが、「まずはその疲れ切った体を癒せ」とおじさんはいい、飲み水とチャイを用意してくれた。ありがたやありがたや。

水を飲んでいる合間に、おじさんは「私はハッサン」と名乗り、さらに僕の名前を聞く。ただ、どうしても覚えられないらしい。で、何度か聞き返したが、最後には「ムリさん」と呼び始めた。「覚えるのはムリ」のムリというわけ。

元気を取り戻した僕は、三洋電機ブランドの電話機の設定に取りかかった。結果から言うと、うまくできなかった。説明書どおりに設定したのだけど、イランと日本では、電話の仕様がちがうんだね。留守電ひとつ、正しく動作しなかった。勉強になりました。

ハッサン氏はいささか落胆したが、僕の努力には深く感謝してくれた。お礼に、と晩ごはんを振る舞ってもらった。炒り卵、シーチキンをナンにくるんで食べた。さらに、ハッサン氏言うところの「イラン式ラーメン」も出てきた。これは、短い麺を牛乳で作ったスープに浸したもので、具はジャガイモ。町中の食堂では見かけない、家庭の味。なかなか美味しかった。

日本人は9割が親切、イラン人は……

この食事の合間に、ハッサン氏はいろいろ話してくれた。中でも印象的だった言葉を、長いけれど引用しておこう。

「日本人は素晴らしい。悪い人も少しはいるけど、10人に9人は親切にしてくれる。私がイランに帰国する時、社長さん達は泣いて別れを惜しんでくれた。自分の身内が死んでも泣かない人だったのに。」

ちなみに、イラン人の親切な人と嘘つきの割合は、半々くらいだそうです。よく覚えておこうっと。

こうして、夜10時ころまでハッサン氏宅にいた。奥さんから「今日はもうここで泊まったら?」というありがたい提案もいただいたが、翌日は朝から移動する気だったため、お礼を言いつつ返らせていただくことにする。帰り際、ハッサン氏と奥さん、それに娘さんの写真を撮らせてもらった。

宿の近くまでハッサン氏に送ってもらった。貴重な経験をさせてもらったことに感謝して、僕は20000リアルを彼にタクシー代として渡し、別れた。
posted by たあぼう at 20:00 | デリー 🌁 | Comment(5) | TrackBack(0) | ペルシア(イラン)旅行
この記事へのコメント
おお〜、これです。一人旅の醍醐味は!!


Posted by Yukiko at 2005年05月15日 16:35
たあぼうさん、結局20000リアル払ったんですね。(偉い。)これでハッサンさんの日本人のイメージは上がったでしょう。
Posted by Yukiko at 2005年05月15日 16:38
Yukikoさん

まさに醍醐味です。中東や中央アジアを旅して楽しくなるのは、こういうハプニングに出会えることが多いからなんですよね。

一歩間違えば危ない行為でもあるわけですが。

食事させてもらうなど、いろいろ貴重な経験したことですし、とはずんでみました。といっても200円あまりなので、むしろけちくさいと思われるかなぁ。
Posted by たあぼう at 2005年05月15日 22:07
いいですね、うらやましい。こういう経験してみたい。
やっぱり男性と女性ではね。。。
「おし!一緒にチャイを飲もう!!」と言われても
疑い100%
「今日は俺の親戚の結婚式があるんだよ。是非来てくれよ」
と招待されたこともありますが、
「えーっ♪何時から?」
「夜の10時からさ」
行きたいがぁー、夜かよぉー、一人ではキケンだよなぁーとお断りしたことも。
良い人悪い人、見分ける目は賭けですよね。。。
Posted by アーサー君 at 2005年05月16日 12:54
アーサー君さん

確かに異性だとますます判断が難しいですねぇ。僕が女性に誘ってもらったことは、中国で2回と、ウズベキスタンのガキが1回。後はあったかなぁ?

中国の2回はどちらもお断りしました。1回目のケースは付いていって大丈夫と確信がありましたが、旅行ルートが思いっきりずれてしまうので。一方、2回目のはめっちゃ怪しかったなぁ。

ウズベクのガキの時は付いていってみたのですが、大はずれでした。すれまくりで、物売り付けばかりで(怒)
Posted by たあぼう at 2005年05月16日 13:14
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